二十世紀は観念や意識ではなく、「言語が前景を占めるようになった世紀である」と言われています。構造主義的な知の転換は、ソシュールによる共時言語学の体系・構造の解明および一般記号学の提唱を水先案内人として、社会人類学の分野、歴史研究や文学研究の領域、思想・哲学、精神分析の領野などにおいて行われました。またヴィットゲンシュタインを嚆矢とする分析哲学の流れにおいても、いわゆる「言語論的転回」を通じて、現代的な問題設定や分析方法の革新が行われてきたと言えます。現代思想は、こうした知のパラダイム転換に則して展開されてきた思潮です。
現代思想はさまざまな角度から考察することが可能ですが、本専攻においては、言語論的・記号論的な観点、テクスト論的な観点から究明することが中心となります。ひとつの例をあげれば、ドゥルーズが主要な研究対象としてプルーストやカフカを論じ、デリダがマラルメ、ジョイス、カフカ、バタイユ、ブランショを論じているように、またベンヤミンがボードレールの翻訳の序文として「翻訳者の使命」を書き、バフチンがドストエフスキーの<詩学>を論じているように、現代思想は旧来の思想・哲学とは違って文学論と切り離せないかたちで結ばれています。その理由は、現代思想が第一に言語(および言語活動)の様態、その機能や作動様式などを注意深く考察することを通じて初めて、思想の内容や概念性を問うからです。また第二に、どんな思想書であれ、テクスト論的に読み解き、間テクスト性(テクスト相互関係性)という展望において捉え、理解するからです。さらには、フロイトの精神分析や、諸々の記号学(むしろ記号解体学)などの、新しい、今日的な意義のある方法論を探索しつつ、論者のよって立つ視座および認識の枠組みそのものを革新する仕方で思想研究を実践するからです。
そこにはまた、たとえば民族学的・人類学的な知見、文化研究の知見、異文化接触と翻訳の知見、宗教社会学・倫理学的な知見など、さまざまな学知が自在に組み合わされ、活用されるよう求められています。むろん思想研究は、個々人の経験に根ざした独自の思想形成に裏打ちされてのみ、豊かになりうるものです。現代的な課題に立ち向かう、旺盛な関心に溢れた諸氏の参加を願っています。