本授業は、同一の原典からの翻訳として成立した14世紀末の二篇の物語詩、ジェフリー・チョーサーの「法律家の物語」(『カンタベリー物語』)とジョン・ガワーの「コンスタンスの物語」(『恋する者の告解』)の精読をおもな目的とする。ロマンスと聖人伝という二つのジャンルの混淆を特徴とするこれらの詩は、それ自体が翻訳という営為の所産であるのみならず、異文化間を移動し漂流する女主人公の姿を通じて、間文化性と情報の伝達を主題化した物語でもある。と同時に、これらの詩の重要なテーマのひとつは、西欧キリスト教世界のアイデンティティとイスラム教世界の他者性の表象であり、そこに十字軍のイデオロギーの影響を読み取ることも可能である。本授業では、間文化性と翻訳という観点からチョーサーとガワーの詩を比較考察するとともに、両者を対象とした近年の批評における多角的な解釈の試みを分析する。
初回の授業はイントロダクション。二週目以降はチョーサーの「法律家の物語」("The Man of Law's Tale")とガワーの「コンスタンスの物語」("The Tale of Constance")の精読、およびそれぞれの詩を対象とした近年の批評の考察を中心に授業を進める。また、受講者のレベルに応じて、もし可能であれば、キリスト教世界とイスラム教世界の文化接触をテーマとした同時代の別の二つのロマンス、"The King of Tars"と"Sir Isumbras"を比較の対象に加え、間文化性の問題に対する理解と考察をさらに深めていく。
受講者による訳読と口頭発表、およびディスカッションを中心とした演習形式の授業となる。
授業への参加態度、訳読や口頭発表の内容、および期末レポートの成績を基に総合的に評価する。
「法律家の物語」は The Riverside Chaucer に含まれるテクストを使用する。それ以外のテクストについては、オンライン上で全文が公開されているものも含め、初回の授業で詳細を伝える。
授業中に指示する。