「連濁」は日本語の音韻現象の1つに過ぎないが,これほど海外の言語研究者を含め国際的に有名で,かつ広く深く掘り下げられた日本語固有の音韻規則はないだろう.日本文化を象徴するmanga, animeと同様に,rendakuも英語化されwiki化されているくらいである.その功労者は間違いなくJunko ItoとArmin Mesterであり,彼女らが国際的に活躍する音韻論者であるだけでなく,Ito & Mester (1986) "Phonology of Voicing in Japanese" (Linguistic Inquiry 17:1)以来の一連の著作で「連濁」を研究課題の基軸の1つとしたことで,「連濁」は瞬く間に世界の関心を集め,いまもなお活発な理論的・実験的研究が展開されるほどのホットなトピックとなっている.
この授業では,過去と現在の連濁研究を総括したティモシー・T・バンスほか編(2017)『連濁の研究』(国立国語研究所プロジェクト論文選集)を紐解きながら,連濁のいろははもちろん,その音韻・形態条件,心理的側面,獲得や学習可能性,歴史変化や方言変異などを考察することを通して,日本語音韻論の目標や方法論を学んでゆく.
『連濁の研究』は10章からなるが,第1回〜第10回の授業は受講者による各章の紹介と全体討論に当て,第11回〜第13回の授業では連濁に関するオリジナル発表と全体討論を行うものとする.「オリジナル発表」とは,それまでの議論を踏まえて,自身が新データを提供したり新たな考察を加えたりして構成したミニ発表である.発表時間は受講者の人数により決めるものとする.授業後にはこのミニ発表を論文形式でまとめ,最終課題として提出してもらう.
授業の進め方について,「各章の紹介と全体討論」は,受講者分担による発表形式を採用し,セクションごとの流れやポイントを内容紹介してもらいながら,質疑応答する形で進めていく。
評価は,出席や発言など授業への積極性20%,紹介発表30%,オリジナル発表20%,最終課題30%として総合的に行なう。
ティモシー・T・バンスほか編 (2017)『連濁の研究』(国立国語研究所プロジェクト論文選集,開拓社).
Vance, T. Timothy and Mark Irwin (2016) Sequential Voicing in Japanese (Papars from the NINJAL Rendaku Project, John Benjamins).
特になし.