人間言語で用いられる音の分布や配列は,一見複雑には見えるがランダムになされているわけではなく,ある種の法則に従っている.それは誰しも当然のように受け入れ,それに従って言語を用いているにもかかわらず,自然法則の場合と同様に普段意識されることは全くない.しかし,共有された法則があるからこそ,母語話者は当該言語の音列を難無く生成・理解し,言語を問わずその獲得に大差は見られないのである.
この授業では,そうした言語音の背後にある法則を探求することを通して,それを成り立たせる知識の構造(文法)を解明する分野 --- 音韻論(=音の文法)の世界へと誘い,英語や日本語などの身近な言語現象を観察しながらその初歩を導入する.要は,音韻論の基本的な方法論や思考法を学びつつ,身近な言語現象を観察してみること,そこで起きている現象の「なぜ」を探ることを目標とする。
以下の計画で講義・演習を進める.
第 1回:音韻論のための音声学的基礎
第 2回:子音や母音の音声学的特徴
第 3回:弁別素性と自然類
第 4回:音素と異音
第 5回:現象の一般化と音韻規則1
第 6回:現象の一般化と音韻規則2
第 7回:素性を使った音韻規則の定式化
第 8回:様々な音韻規則
第 9回:モーラ・音節を中心とした韻律階層
第10回:語形成とモーラ・音節
第11回:強さアクセントと強弱リズム
第12回:高さアクセントと音調
第13回:期末試験
phonetics(音声学)とphonology(音韻論)はそれぞれhow-questionとwhy-questionに対応する分野であり,前者は個々の音や音列がどのような音響的性質を持ちどのように生成
・知覚されるのか,後者は生成された音列がなぜそのようなパターンを形成するのかを言語知識の問題として考究するものである.why-questionは当然ながらhow-questionを前提とするので,音韻論にとって音声学の基礎知識は必須となる.
第13回(最終回)はそれまでの内容を総括する意味で,期末試験を実施する.
毎回の授業の進め方としては,「スライドを用いた講義形式+関連問題を解く演習形式」のセットで話を進める.宿題も頻繁に課す.それと平行して,別プリントにてテキスト以外の話題をも補足しながら,議論を拡大・深化させてゆきたい.
話の流れにおいて,質問も大歓迎だが,指名も頻繁に行なう.積極的な参加を期待したい.
評価は,出席や発言など授業参加の積極性20%,宿題30%,期末試験50%の配分にて決める予定.
教材は基本的にこちらで用意する.
Zsiga, E. C. (2013). The Sounds of Language: An Introduction to Phonetics and Phonology. New York: Wiley-Blackwell.
この授業は4つの言語学入門講義の1つであり,言語学分野で修士論文を書く場合には必修科目(1年次に履修)となっているが,言語学以外を専門とする学生で音韻論の基礎を身につけておきたいという学生の履修も歓迎する.ただし,言語理論 II との重複履修はできないので,内部進学生は注意すること.