東京大学大学院総合文化研究科

言語情報科学専攻

Language and Information Sciences, University of Tokyo

東京大学大学院総合文化研究科

言語情報科学専攻

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言語科学基礎理論演習V(日本語アクセントの平板化現象)

  • 科目コード(修士): 31M200-0151A
  • 科目コード(博士): 31D200-0151A
  • 開講学期: A1, A2
  • 曜限: 木(Thu)3 [13:00-14:45]
  • 教室: 8号館 8-110
  • 単位数: 2.0
  • 担当教員: 田中 伸一

授業の目標・概要

 平板式アクセントは日本語の文法大系固有のもので、もともとの和語「姉」「桜」「丼」のほか、漢語「音韻」「東京」「平成」だけでなく外来語「ガラス」「アメリカ」「アルコール」にも適用されるなど、広く見られるアクセント型である。
 この現象が面白いのは,音韻理論から見て,いくつかの重要な問題を提起するからである。まずは、内容語に関して無アクセント語を許容しない西洋諸語に対して,そもそもなぜ日本語は無アクセントたる平板式アクセントを許容するのかという問題である。もう1つは、もともとの語彙だけでなく派生により導かれる音韻過程において、なぜ平板式アクセントがかくも生産的なのかという問題である。つまり、平板式アクセントは日本語にとって無標性の表出(The Emergence of the Unmarked)を示唆する現象であり、この観点からの解明が前者の問題の解決にもつながる可能性が高い。
 たとえば、「太陽」「系」「風土」「病」はアクセントのある起伏式の語であるが,複合語化すると「太陽系」「風土病」のように平板化する。「黒」「猫」「都市」「ガス」も同様に起伏式アクセントであるが,「黒猫」「都市ガス」などの複合語では平板化する。ほかにも,起伏式単純語の「ハンカチーフ」「バーテンダー」は省略されると「ハンカチ」「バーテン」のように平板化するし,起伏式複合語の「パーソナルコンピューター」「ワードプロセッサー」も省略複合語になると「パソコン」「ワープロ」と平板化される。
 ここには2つの要因が関わると指摘されてきた。1つは形態的要因で、「系」「病」などはアクセントを消失させる平板化形態素だという説である。「太陽系」「風土病」に対し,「太陽族」「風土面」では起伏式アクセントの複合語が作られるからである。もう1つは音韻的要因で、4モーラの謎と呼ばれるものである。「黒猫」「都市ガス」「ハンカチ」「バーテン」「パソコン」「ワープロ」はすべて4モーラであったが、複合語「ペルシャ猫」「LPガス」、省略単純語「スト(ライキ)」「ダイヤ(モンド)」、省略複合語「テレ(フォン)カ(ード)」「プラ(スチック)モ(デル)」などの4モーラ以外の語ではアクセントが現れる。
 なぜ4モーラ語が平板化するのか?この授業では、Ito and Mester (2015; To appear in Linguistic Inquiry) “Unaccentedness in Japanese”を読み解きつつ,他の形態的・音韻的要因をも合わせて,この問題を考えてみたい。

授業のキーワード


授業計画

 

授業の方法

 授業の進め方としては,受講者の担当によるセクションごとの内容紹介に基づいて読み進め,適宜補足やディスカッションを行なう。また,最終課題として,論文全体の中からあるトピックを取り上げ,それについての自らの考えをまとめたレポートを提出してもらう。

成績評価方法

 積極的な参加や発言,演習(内容紹介),最終課題(レポート)を総合的に評価する。

教科書

Ito and Mester (2015; To appear in Linguistic Inquiry) “Unaccentedness in Japanese”

参考書

 

履修上の注意

授業の初日には、下記のURLから教科書を各自ダウンロードして目を通した上で出席すること。
http://roa.rutgers.edu/content/article/files/1423_ito_1.pdf