この授業では特に近代イギリスを中心とする「ユートピア/ディストピア」について、①思想、②表象、③物語の三側面からおおまかな歴史的流れを把握しつつ、いくつかのテクストを精読することで、「ユートピア的想像力」についての具体的な理解を養います。
「ユートピア」という形式は長い伝統を持ついっぽうで、「全体」としての社会・共同体を構想するジャンルの性質上、現代におけるその批評的意義はますます高まっています。
授業では最初に入門的講義をおこなったあと、演習形式に移行します。演習ではユートピア/ディストピアにまつわる複数のテクスト(文学ならびに批評)を読み、解釈と議論を重ねることで、鍵となるさまざまな問題に対する考察を深めてゆきます。
取りあげる問題は次の通りです。絵空事としての「ユートピア」がいかに現実の社会・歴史への言及を含むのか。ユートピア表象や物語の「約束事(conventions)」にはいかなるものがあるのか。ユートピアはどのようにしてディストピアへと反転するのか。ユートピア表象が、あるときは希望の源泉として、またあるときは社会批判の言説として、どのように機能するのか。
1.イントロダクション
2.ユートピアの伝統(1)トマス・モア前後
3.ユートピアの伝統(2)産業革命前後
4.ウィリアム・モリス『ユートピアだより』(1)
5.ウィリアム・モリス『ユートピアだより』(2)
6.ウィリアム・モリス『ユートピアだより』(3)
7.ウィリアム・モリス『ユートピアだより』(4)
8.ディストピア(1)
9.ディストピア(2)
10.ディストピア(3)
11.ディストピア(4)
12.ユートピア批評(1)レイモンド・ウィリアムズ
13.ユートピア批評(2)フレドリック・ジェイムソン
14.ユートピア批評(3)同上
15.まとめ
※以上は目安であり、部分的に変更する可能性もあります
おもに演習形式で進め、部分的に講義を挟みます
授業中の発表と議論への貢献(30%)、ならびに期末レポート(70%)
モリスのテクストについては通読しますので、ペンギン・ペーパーバックの原書をテクストに指定します。その他はプリントを配布。
William Morris, News from Nowhere and Other Writings (Penguin Classics, 1994)
フレドリック・ジェイムソン『未来の考古学第一部・第二部』(秦邦生ほか訳、作品社、2011-12年)
グレゴリー・クレイズ『ユートピアの歴史』(巽孝之ほか訳、東洋書林、2013年)
初回の授業で参考資料を提示するので、各自興味のある問題については自分でさらに調査と考察を進め、期末レポートのテーマとなる問題意識を養っていってほしい。