19世紀末になると「新しい女性たち」(New Women)といわれる女性たちがイギリスに出現する。ファッション業界をはじめとする職業領域で独立心旺盛にビジネスや自営業を立ち上げ、社会のなかで活躍の場を積極的に見出そうとした女性たちである。
しかし、彼女たちはつねに成功したわけでもない。ジョージ・ギッシングの『余った女たち』(The Odd Women, 1893年)は、下層中流階級の女性たちがロンドンで生き抜こうとして直面するさまざまな障害や男性たちの野心が恋愛を軸にして克明に描き出されている。中流階級に焦点が当てられているとはいえども、初期のギッシングが描き続けた世紀末のイギリス社会に内包された暗黒部も見え隠れしている。社会批判も含まれるが、「新しい女性たち」を主人公にした通俗小説「新しい女性」小説に対するアンチ・テーゼでもある。そもそも新しい女性たちはさまざまな社会的制約に直面したし、また男性たちもこうした女性たちを黙って許容したわけではない。男性中心社会が女性を周縁部へと排除していく力学が女性たちにはどう作用し、またギッシングがそれをどう描いているかを、小説を丁寧に精読しながら、考えていきたい。
フランスの自然主義作家エミール・ゾラと比肩されることの多いギッシングの小説には、社会の底辺や周辺で苦しむ人びとの姿が描かれることがたしかに多いが、そうした写実的な描写の背後にある意味は何なのであろうか。それを世紀末の絵画・芸術、社会主義などの社会運動、都市の郊外化などをも考慮し、それらに関する言説を読みこむことで明らかにしてみたい。
授業は毎回課題のテクストを読みこんでいきながら、ヴィクトリア朝末期の文学について参考文献も参照しながら考えていく。同時代の他の作品や社会史的な資料、あるいは研究文献も渉猟しながら、ときにDVDや絵画を鑑賞しながら、じっくりとテクスト分析をすることで、文学研究・批評の基礎を身につけてもらえればと思っている。
フランスの自然主義作家エミール・ゾラと比肩されることの多いギッシングの小説には、社会の底辺や周辺で苦しむ人びとの姿が描かれることがたしかに多いが、そうした写実的な描写の背後にある意味は何なのであろうか。それを世紀末の絵画・芸術、社会主義などの社会運動、都市の郊外化などをも考慮し、それらに関する言説を読みこむことで明らかにしてみたい。
授業は毎回課題のテクストを読みこんでいきながら、ヴィクトリア朝末期の文学について参考文献も参照しながら考えていく。同時代の他の作品や社会史的な資料、あるいは研究文献も渉猟しながら、ときにDVDや絵画を鑑賞しながら、じっくりとテクスト分析をすることで、文学研究・批評の基礎を身につけてもらえればと思っている。
毎回課題とするテクスト箇所を精読し、読解・分析を試みる。
発表担当者による発表をもとにしながら議論をし、理解を深めていく。
ギッシングの小説テクストを中心に読解を進めるが、19世紀末の男女の結婚観や生活の問題、階級を軸にした社会問題などについても関連資料を英文で読んだり、英文・和文の批評を通して考えていく機会を設けていく。
出席態度60%、発表10%、レポート(2回)30%
George Gissing, The Odd Women (Oxford World's Classics), ed. Patricia Ingham (Oxford: Oxford UP, 2008) ISBN: 978-0199538300
(それ以外の文学作品抜粋、資料については適宜コピーを配布します。)
松岡光治編『ギッシングを通して見る後期ヴィクトリア朝の社会と文化』(溪水社、2007年)など
参考文献一覧は初回の授業時に配布します。
文学のテクストをきちんと精読することをまず心がけてほしいと思います。そのうえで歴史的な文脈のなかで読み直すことで、ひとつひとつの表現の裏に潜在している含意を掘り起こしていく面白さを味わってもらえればと思っています。文学を読むことからどんな世界が見えてくるのか、それを男女の恋愛関係や自立の問題という身近なテーマを共有しているみなさんの感性と知性で率直に把握してもらいたいと思っています。