本授業では、人間の「言語と認知」の探求に科学的にアプローチするための学際的研究領域への入門を目指す。
人間の言語と認知はどのように関わっているのか。子供の成長において、言語発達と認知発達とはどのような関係で発達するのか。ある言語を獲得することは認知に影響を与えるのか(与えるなら、どう影響するのか)。問い直すと、異なる言語を習得した人々の認知構造において、習得した言語に影響を受ける認知構造、或は、普遍的な認知構造はいかに捉えられるのか。言語と思考との関係はどのように捉えられるか。これらの問いを念頭に、本授業ではまず、「言語と認知」に関するこのような問いが、 認知科学関連領域においていかに探求されてきたか・いかに探求できるかを学び考察する。
「言語と認知」に関して、言語学・心理学・発達心理学・文化人類学・脳神経科学・言語獲得論・第二言語習得論・進化論等、認知科学の諸分野において、さまざまな見地・切り口から研究が進められてきている。一方で、発達心理学者ヴィゴツキーによる『言語と思考』は重要な理論であり、他方で、近年の実験手法・コーパス分析手法や脳神経科学的手法は新たなアプローチを可能にしてきている。言語学領域一つとっても、文化人類学的言語研究から提示・検証されたサピア・ウォーフ仮説(言語相対性仮説)は、Slobinにより ”Thinking for Speaking"という概念で捉え直され、同時に、認知言語学において、カテゴリー化や意味フレームやメタファ・メトニミーやメンタルスペース等の理論を背景に語彙・構文の意味分析が行われる中で、言語獲得論・類型論・対照言語学・第二言語習得論等との複合的視点から、「言語と認知」を探求する研究が展開してきている。例えば、"空間" の認知と言語、"時間" の認知と言語、"色" の認知と言語、"離脱"の認知と言語、「心の理論」の発達と言語発達、"因果関係"の認知と言語、「語り」における事態把握の言語化諸相の選好性などが、重要なテスト事例として間言語的に分析されてきている。本授業では、これらの理論と実証的研究とを交えて紹介し講読・議論しつつ、履修者自らの興味・視点から、「言語と認知」をいかに実証的かつ地道に探求することができるかを考察する。
初回授業において配布し説明する。
講義と演習を併せる。
演習を通して、先行研究や様々な理論を理解しつつ、その分析やデータを批判的に考察し議論する。
平常の授業活動を重視する。授業における議論への参加度、授業前後の文献読解、演習、ディスカッション・リーダー、レポートなどを総合的に判断して,評価をおこなう。
『言語と哲学・心理学』(朝倉書店 2010)、他
他の文献は授業において指示・配布する。
授業において指示・配布する。