複雑に暗号化(コード化)された『神曲』は人類が有する最も高度な文学作品であるため、日本語訳で~たとえ原文のイタリア語であれ~読んでも、現代の読者は作者の意図の1割も理解できない。(実際、日本の『神曲』訳者自身が理解できていないことは訳文を見れば、明白である。)なぜなら『神曲』は単に古代ローマ文学(ラテン文学)から中世文学までの長い伝統の上に成り立っているというだけでなく、それらをサブ・テキストとして作品内に包摂しているために、古典の知識とダンテの表出方法の両方を知らない限り、テキストに掛けられた鍵を明けることができないからである。それだけではない。キリスト教精神によって裏打ちされた『神曲』は聖書の伝統に関する知識なしには読めないように二重の鍵が掛っている。すなわち、聖書のテキスト解釈(=教父文学)の永い伝統と中世神学の理解なくしては読み解けないからである。加えて、百科全書的知識が網羅されている『神曲』は、数学や天文学を始めとする自然学の知識なくしてはその構造が理解できない仕組みになっている。つまり、数的・幾何学的にコード化(暗号化)されて構成されているからである。近代~ダンテ~以降失われてしまったため、これまで日本で紹介されたことも解説されたこともない知識を判り易く解説しながら、世界一豊穣な~近代文学とは全く異質な~文学世界を読み解いていきたい。その過程で古代や中世の文学テキストの読み方、聖書の読み方なども自ずと理解できるようになってくる。つまり、まったく新しい世界の地平が見えてくるはずである。
1.古典作品の読み解き方(ギリシャ神話編)
2.聖書世界の解釈の伝統(聖書編)
3.物質宇宙と精神宇宙の照応(中世編)
4.『神曲』の設計図(数の象徴体系)
5.『神曲』の設計図(永遠の幾何学)
6.天文学の象徴
7.地獄篇第1歌(実践編)
8.地獄篇第2歌(実践編)*時間が許せば。
講義形式
出席とレポートによる。
すべてプリント資料をこちらで配布するため、何も用意する必要はない。むしろ教科書は有害である。虚心坦懐にテキストを読むには既成の知識は役に立たないからである。必要なのは目の前のテキストと自分の頭だけ。
授業で扱う知識はインターネットや参考書などにない。言うなれば、すべてが参考書となり得るし、各自の心だけが唯一の参考書である。(内に思うことある者は、外に感じ易し。)