歴史の淘汰に堪えて残ったと評される『万葉集』の秀歌だが、そう扱われるものの範囲は時代に応じて意外なほど変動してきた。この授業では、江戸時代にあまり顧みられていなかったのに近代以降に評価が急上昇した歌を取り上げ、その読み方と解釈を検討する。リストから各自一首を選択し、丹念に読み解くことを通して、『万葉集』に関する基礎的な資料批判の手法を身につけるとともに、和歌を読むうえでの勘所のつかみかたを会得する。
1、江戸時代と近代の代表的万葉秀歌選について解説し、それらにおける採歌状況を概観する。
2、『校本万葉集』、複製本、古辞書類、諸注釈などの利用法、用例の検索法、参照文献等について解説する。
3、一首を取り上げてデモンストレーションの発表を行なう。
4、1~3をふまえて受講生が各自担当歌を決め、順に発表し、討論する。
5、総括。
演習形式。ただし「授業計画」記載事項のうち、1~3と5は担当教員が行なう。
発表の出来映えと討論での有意義な発言を成績評価の材料とする。水準に満たないときはレポートを課することもある。
佐竹昭広・木下正俊・小島憲之共編『万葉集 本文篇』塙書房
坂本信幸・毛利正守編『万葉事始』和泉書院
自身の専攻にとらわれず、気軽に参加して欲しい。文献学的な研究手法は労多くして実りの少ない面があり、とかく無味乾燥のように思われがちだが、あらゆる研究の出発点となる基礎的研究である。それに、一度足を踏み入れると案外「はまる」人が多い。少なくとも、こういう研究手法があることを知っているのと知らずにいるのとでは、自身の研究に取り組む態度も相当違ってくるはずだ。