15世紀末にコロンブスらがヨーロッパに持ち込んだと言われる梅毒は、日本では「唐瘡」と呼ばれ、16世紀に大流行の記録がある。その後も長い間確実な治療方法はなく、「亡国病」とも呼ばれたこの恐ろしい病に果敢に立ち向かい、最初の特効薬サルバルサンを発見したのが、パウル・エールリッヒ(1854-1915)と今年没後80年を迎える秦佐八郎(1873-1913)だった。 他方、Th.マンの『ファウストゥス博士』をはじめ、梅毒は文学作品の重要なモティーフとしてもしばしば使われてきた。こうした病と文学、あるいは医学と文学の密接な関係も本授業で詳しく掘り下げていきたい。
授業の半分は、エールリッヒ=秦のサルバルサン発見までの経緯とその意味、およびこの特効薬の波紋(被験者
・人種問題など)など医学史的内容と時代背景をおさえるため、ドイツ語資料を読みすすめる。残り半分は「医学と文学」という視点から、Th.マンの『ファウストゥス博士』など、梅毒が使われている文学作品をできるだけ読み、病の描写や患者の心理などを比較・検討する。時間が許せば、秦の伝記を読んだり、同時代の医学者たち(たとえばコッホ、ベーリング、北里柴三郎など)との関係性も調べたりしながら、フィクションとノンフィクションの差異なども詳しく見ていきたい。
演習形式で行う。毎回、指定された日本語文学作品(翻訳含む)およびドイツ語テクストを読み、その内容について分析・議論する。
授業への積極性(予習準備や授業内の小レポート含む)および学期末には論述試験またはレポートを課す予定。詳細は授業内で説明する。
ドイツ語の基本資料としては、まず2015年にドイツ国内で開催された特別展用冊子:Arsen und Spitzen-FOrschung. Paul Ehrlich und die Anfaege einer neuen Medizinを読む予定。
基本的にプリント配布で対応、詳しくは授業中に説明する。
文学作品としては、Th.マン『ファウストゥス博士』、E.ヘミングウェイ、W.S.モームほか『病短編小説集』平凡社ライブラリー、2015など。ドイツ語のレファレンス図書としては、Vandenhoeck&Ruprecht社からの”Literatur und Medizin. Ein Lexikon”(2005)など、いずれも授業中に適宜紹介する。
ドイツ語テクストを読むので、履修者はドイツ語中級以上の能力を持つ者に限る。毎回、日本語およびドイツ語のテクストを読む予習が必要になるので、それを了解した上での履修が前提条件。履修希望者は初回授業に出席すること。