12世紀のフランスでクレチアン・ド・トロワの『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』が書かれて以来、時代を越え、国境を越えて現代に至るまで書き継がれ、様々な変容を遂げてきた聖杯探求の物語。その伝統的なテーマは、それぞれの作品を生み出した社会と、そこに生きる人々の心性を映し出す鏡の役割をも果たしている。本授業では、15世紀のイングランドで書かれたThomas Maloryの “The Tale of the Sankgreal”(Morte D’Arthur『アーサーの死』所収)を取り上げ、その中で聖杯探求のテーマがどのような意味を担い、どのような問題意識を表現しているのかを考察する。
初回は中世における聖杯伝説の変遷について講義を行う。翌週以降はマロリーの“The Tale of the Sankgreal”を精読する。あわせて、時間が許すかぎり、以下のテーマについて考察したい。
1) マロリーの物語の典拠となった13世紀フランスの散文ロマンスと比較した場合、マロリーの語りにはどのような特徴が見られるのか。
2) 中世の物語において、聖杯探求のテーマはどのような宗教的・倫理的な意味を有していたのか。
3) 19世紀にマロリーの作品が「再発見」されて以降、アルフレッド・テニスン(『国王牧歌』)、ラファエロ前派の芸術家たち、T・S・エリオット(『荒地』)、ヘンリー・ジェームズ(『黄金の盃』)など、多くの作家や芸術家が聖杯探求のテーマに独自の解釈を加えてきた。近現代の作家たちは、この物語にどのような意味を見出してきたのか。
初回以外は受講者による訳読と口頭発表、およびディスカッションを中心とした演習形式の授業となる。
授業への参加態度、訳読や口頭発表の内容、および期末レポートの成績を基に総合的に評価する。
Oxford World's Classicsのシリーズに収められた以下のペーパーバック版を使用する。Sir Thomas Malory, "Le Morte Darthur--The Winchester Manuscript," ed. Helen Cooper (Oxford: Oxford University Press, 1998).
授業中に指示する。
マロリーの作品を原語で購読するが、中英語の知識がなくても履修可能である。