東京大学大学院総合文化研究科

言語情報科学専攻

Language and Information Sciences, University of Tokyo

東京大学大学院総合文化研究科

言語情報科学専攻

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言語の認知科学IIIb (進化言語学:人間言語の起源に迫る)

  • 科目コード: 08F1103B
  • 開講学期: A2
  • 曜限: 木曜2限 Thu 2nd
  • 教室: 駒場8号館 8-206
  • 単位数: 1
  • 担当教員: 田中 伸一

授業の目標・概要

  言語学の歴史の中で,「言語の起源と進化」に関する研究が,長い間タブー視または等閑視されてきた事実には,それなりの理由があった。  まずは,仮説の検証や証拠提示ができず,方法論を確立できないために,何でもありの説明が横行してしまうことがある。古生物学のように,化石や地層から年代測定法により出現の時代を特定するということができないのである。また,テーマそれ自体が分野横断的な難解さを持つために,共通言語を持たない研究者同士が手を組んでテーマを煮詰めていけなかったこともある。言語学はいうに及ばず,進化生物学・動物行動学・認知心理学・人類学・遺伝学・神経学などの領域にわたり,いわば進化認知生命科学全体の問題となる。そして何より,現代言語学を牽引してきたN. Chomskyが,このテーマを扱うほど言語学が成熟していないと断言してきたことも,大きな理由であった。  この授業では,そうした背景の中で打ち出されたHauser, Chomsky, and Fitch (2002)を扱う。つまり,あのN. Chomskyが,進化生物学や認知神経科学に詳しいMarc D. HauserとW. Tecumseh Fitchと手を組んで進化言語学の方法論を提案し,このテーマを現代に甦らせた金字塔である。これを皮切りに,S. PinkerとR. Jackendoffとの一連の論争がさらに起爆剤となって,現在までの進化言語学の進展が益々加速したのである。

授業のキーワード

  • 言語の生物学的基盤
  • 進化言語学
  • 生物言語学
  • 言語の起源と進化
  • 心理

授業計画

 授業期間が短いので,まずはHauser, Chomsky, and Fitch (2002)をもとに,現代進化言語学の課題や方向性についての基礎を理解することを第一目標とする。余裕があれば,授業担当者の最新の成果をプリントをもとに講義し,更なる問題点について討議しテーマを深めてゆく。

授業の方法

 授業の進め方は,最初のうちは教員が講義形式で進めていくが,慣れて来たところで受講者による演習形式(分担による発表形式)を採用し,セクションごとの流れやポイントを内容紹介してもらいながら,質疑応答する形で進めていく。授業計画で言及した「更なる問題点についての討議」は,教員が用意するプリントに基づいて行う。

成績評価方法

 評価は,出席や発言など授業への積極性50%,演習(発表)50%として総合的に行なう。

教科書

下記の論文を各自ダウンロード/コピーして入手し,最初の授業日に持参すること。
Hauser, Marc D., Noam Chomsky and W. Tecumseh Fitch (2002) “The Language Faculty: What Is It, Who Has It, and How Did It Evolve?,” Science 298, 1569–1579.

参考書

1) Pinker, Steven and Ray Jackendoff (2005) “The Faculty of Language: What’s Special about It?,” Cognition 95, 201–236.
2) Fitch, W. Tecumseh, Marc D. Hauser and Noam Chomsky (2005) “The Evolution of the Language Faculty: Clarifications and Implications,” Cognition 97, 179–210.
3) Jackendoff, Ray and Steven Pinker (2005) “The Nature of the Language Faculty and Its Implications for Evolution of Language (Reply to Fitch, Hauser and Chomsky),” Cognition 97, 211–225.

履修上の注意