東京大学大学院総合文化研究科

言語情報科学専攻

Language and Information Sciences, University of Tokyo

東京大学大学院総合文化研究科

言語情報科学専攻

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言語態基礎論II(都市/物語のかたち  ― 時間の位相と批評)

  • 科目コード(修士): 31M200-1070S
  • 科目コード(博士): 31D200-1070S
  • 開講学期: S1, S2
  • 曜限: 月(Mon)3 [13:00-14:45]
  • 教室: 8号館 8-113
  • 単位数: 2.0
  • 担当教員: 大石 和欣

授業の目標・概要

 都市は時の経過にしたがってかたちを変える、と言ってしまえば陳腐な理のように聞こえますが、都市は語りにしたがってかたちを変える、と文学的に言い直してみると謎めいてきます。歴史的時間のなかで都市が盛衰を繰り返すように、文学作品に描かれた都市は語りの展開とともに新たな姿を現し、ときに表情を変え、変貌していきます。そのかたちはどのようにして捉えたらいいのでしょうか。
 この授業では都市と語りのかたちを、時間を軸に捉えなおしてみます。毎回、都市の文学的表象として代表的な事例をとりあげ、関連する批評文献を参照しながら、古今東西、虚構の中で語られた都市の姿と時間の関係性を解きほぐしていきます。
 記憶のなかに埋没してしまった都市、時代に取り残された都市、祝祭的時間を永遠に湛えた都市、常に新たな記号と意味を生成し続けるパリンプセストのような都市、群衆が行き交い、混沌を深める都市、スラム化し、犯罪を増殖させ、闇を深めていく都市。それぞれの都市を語り紡ぐとき、そこには非現実の時空間が構成されていきます。それをどのように捉え、考えたらいいのでしょうか。
 フィクションであれ、あるいは歴史的記述であれ、言説によって描かれる都市は過去や現在に固定されているわけではなく、語りが紡ぎ出す言葉と筋によって構築されていきます。それは主体の心の中に埋没し、いつの間にか変形してしまった記憶の都市なのかもしれませんし、あるいは時間とともに神話化してしまった集合的記憶に閉じ込められた共同体かもしれません。時間の経過があいまいになり、主体と客体の区別さえ溶解していくトポス。淀んだ川の淵のようでいて、その底でゆっくりと流れ続ける意識に沈んだ都市。それを言説化する行為は、語りとしてどのような問題を提起することになるのでしょうか。それらをいくつかの小説や基本的批評文献とともに考えてみたいと思います。

授業のキーワード

  • 都市
  • 時間
  • 物語
  • ナラトロジー
  • 記憶
  • 文芸批評
  • 歴史哲学

授業計画

 毎回の授業は、各回、都市をテーマにした小説一篇と関連した批評文献の抜粋を軸に進めていきます。 まず担当者から、選択した課題文献の内容を批評的に紹介してもらい、参加者全員で課題となっている小説についてのコメントを絡めながら議論していきます。学期全体の授業の構成と扱う文献の詳細については、最初の授業の時に提示します。
 文献はすべて日本語訳を用います。課題小説としては、イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』、パトリック・モディアノ『失われた時のカフェで』、ジョルジュ・シムノン『メグレと口の固い証人たち』、アーサー・コナン・ドイル『四の署名』、ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』、F・スコット・フィッツジェラルド『偉大なるギャッツビー』、夏目漱石『彼岸過迄』、永井荷風『墨東奇譚』、W・G・ゼーバルト「マックス・ミューラー」などです。
 課題批評文献としては、ジェラール・ジュネット『物語のディスクール』、ロラン・バルト『物語の構造分析』、『記号の帝国』、『写真論』、ヴァルター・ベンヤミンのボードレール論、フランク・カーモード『終わりの意識』、前田愛『都市空間のなかの文学』、ポール・リクールの『時間と物語』や『記憶・歴史・忘却』、鹿島徹『可能性としての歴史』、野家啓一『物語の哲学』などです。時間だけではなく、「記憶」あるいは「歴史」と「語り」の問題からも都市の表象を考察してみたいと思います。

授業の方法

  毎回の授業は、各回、都市をテーマにした小説一篇と関連した批評文献の抜粋を軸に進めていきます。 まず担当者から、選択した課題文献の内容を批評的に紹介してもらい、参加者全員で課題となっている小説についてのコメントを絡めながら議論していきます。学期全体の授業の構成と扱う文献の詳細については、最初の授業の時に提示します。
 課題図書については授業前に読み、1200字程度のレポートを前日夕方5時までに担当教員までeメールにてご提出ください(oishi@boz.c.u-tokyo.ac.jp)。授業までに整理をしてディスカッションの素材として提供します。 教員からも重要なテーマや補足資料なども提供しますので、自分なりに考察を深めていただきたいと思います。
学期全体の授業の構成、具体的な進め方、また取り扱う文献の詳細については、最初の授業の時に提示します。

成績評価方法

出席態度40%、毎回のコメント・レポート40%(欠席もしくはレポート未提出は5点減点)、最終試験20%

教科書

特定の教科書はありません。一次資料テクストについては各自で用意をお願いします。二次資料課題文献についてはコピーを配布します。

参考書

授業時に指示します。

履修上の注意