KLOSSOWSKIの日本語表記についての当サイトの考え

KLOSSOWSKIの日本語表記についての当サイトの考え

彼の名を日本語で表記する場合、クロソ「ウ」スキーがいいのか、それともクロソ「フ」スキーがいいのか? 私は長らく疑問に思っていました(もちろん、外国語の固有名詞を日本語のカタカナ表記に置き換える際に、絶対的に「正しい」表記などそもそも存在しないことは重々承知の上で、ですが)。というのも、これまで日本ではこの二つの表記が混在していたからです。たとえば、1987年の『夜想』のタイトルは「特集クロソウスキー」となっているのに対し、1994年の『ユリイカ』の特集では「クロソフスキーの世界」となっています。また、後者ではとくに統一的な表記はされておらず、論文によっては「クロソフスキ」の表記をとっているものもあります。さらに、日本で個展が開かれたりもした1988年当時をご存知の方から「クロソフスキー」のほうをよく耳にしたという情報も入っています(実際、この展覧会は「クロソフスキー展」でした)。このような表記上の混在を生んだ原因として考えられるのは、主にKlossowskiの出自への配慮に関わることであろうかと思います。彼がポーランド貴族の末裔であったことを考えて、ポーランド語の発音に近い表記(クロソフスキー)にしたほうがいいのか、それとも、彼の国籍がフランス人であり、フランス語を母語としたことを考えて、フランス的読みに近い表記(クロソウスキー)にしたほうがいいのか、という選択肢が生じたのであろうということです。

とはいえ、そもそもどんな表記がポーランド語風の発音に近くなるのか、ポーランド語が分からない私には皆目見当もつきませんでした。『芸術新潮』のバルテュス特集を読んだのをきっかけに、「このホームページについて」でクロソウスキーの名前の発音について書いたところ、もうずいぶん前ですがポーランド語に詳しい方からメールをいただき、ポーランド語の発音と表記について丁寧にご教示いただいたおかげで疑問が氷解しましたので、以下ほとんど転載の形になりますが書いておきます(この場を借りまして、情報を下さったalexさんに厚くお礼申し上げます)。

それによると、Klossowskiという名前のポーランド語上の発音は「クォオソフスキ」だそうです。ポーランド語のLは英語などのLは異なり縦のlに斜線が引かれたポーランド語に特殊な字で、発音はウ。次にWは単語の先頭にある時は英語のVと同様の発音になりますが、単語の先頭でない場合にはFの発音になります。

クロソウスキーという表記はフランス語読みに準じたものと思われますが、英語でもそれに近い発音になります。映画『バルタザールどこへ行く』のキャスト名のところで私が疑問に思った表記の問題ですが、ポーランド語の表記で言えばKlossowskyにはならず、Klossowskiになります(ロシア語風に書けば sky かも知れません、とのこと)。ただ、ポーランド語では「スキー」と伸ばすことはない(となると、『芸術新潮』の「クォソフスキー」表記は微妙な誤りということになります。それとも、バルテュス本人がそう伸ばして発音したのでしょうか?)。ただ、ポーランド人とロシア人以外の人達には ski も sky も区別がつかないので誤用することも多いのではないか、というのがalexさんの指摘でした。そこからすると、『バルタザールどこへいく』のキャスト名は、結局スペルミスだった可能性が高いということになります。

以上のことからすると、「クロソフスキー」という表記は、フランス語的でもポーランド的でもない、中途半端な間違いだとのこと。そういうわけなので、もちろん「クォオソフスキ」と書いてもいいのですが、インターネット上の検索に引っかからなくなる、日本語的に「クォオ」という発音はあまり馴染まない、そもそも書きにくい、などなどの事情を考えまして、あくまで便宜的にですが、このサイトではフランス語的な発音に近い「クロソウスキー」に統一させていただきます(ただし、書名や引用などに関してはこの限りではありません)。

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